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仙台高等裁判所 昭和45年(く)20号 決定

少年 D・I(昭二七・一一・二一生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福島家庭裁判所会津若松支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年名義の抗告申立と題する書面に記載されたとおりであつて、要するに、原裁判所の少年院送致決定は処分が重過ぎ著しく不当である旨主張するのである。

よつて、本件法律記録および少年調査記録を検討し、当審における事実取調の結果をも参酌して考察するに、おおよそ次のような事情が明らかである。

一  少年は中学校在学当時、知能の遅れから学習意欲が全くなく級友にもなじめず、いわゆるお客様で、三年時には蓄膿症手術および通院のため欠席早退が目立つようになつたが、総じて、行動および性格面では、三段階のうち中程度(B)の評価を受けていた(学校照会回答書)。中学卒業後、家業の農業を繁忙期に若干手伝う程度で、自ら求めて就職(工員)するものの、いずれの職場にも永続せず、殆んど無為徒食の生活を続け、それが両親の心痛の種となつているのであるが、そのこと以外には、本件非行を除いて特段の問題行動というほどのものはなく、非行歴保護歴は全くないのであつて、右のように勤労意欲、忍耐心に乏しい点については、中学卒業後の二度目の手術にもかかわらず、蓄膿症がいまだに根治していない等身体的悪条件が災していることも見のがせず、右欠乏が少年の怠惰心によるものとのみ断ずるのは妥当でないと考えられる。

二  本件非行の内容は、少年が、(一)、昭和四四年一二月頃の午後六時頃および昭和四五年三月頃の午後七時三〇分頃、自宅の近隣等の路上で、いずれも勤め帰りの女性の後から、いきなりその乳房をつかみ、または肩をつかむなどしたもので、自己の徳性を害する行為をする性癖を有し性格環境に照して将来罪を犯す虞れがあり(虞犯)、(二)、昭和四五年四月八日夜、近くに住む年上の友人○塚○夫に誘われて街へ遊びに行き、同人の行きつけの飲屋計三軒で午前零時頃まで時を過ごし、この間○塚が飲酒し少年は酒を好まぬためさして飲まなかつたが、接待した女給の乳房等を少年がしつこく触わり同女らがそれを嫌がつていたので、○塚は少年のしぐさを心良からず思い、連れ立つて帰宅する途中、腹立ちの余り、いきなり手拳や傍の石を手にして少年の顔面を数回殴打し少年に全治二週間の顔面挫創等の傷害を負わせたのであるが、その際少年はこれに応戦し、自らも○塚の顔面を手拳で数回殴打し暴行を加えた(○塚に対する暴行)、というものであり、右暴行は単純偶発的でそれ自体は問題視するに足りず、その縁由たる少年の性的行為およびそれと同一の基盤に立つと見られる前記虞犯行為がまさに問題の中心であつて、本件非行は、その性質にかんがみ、もとより軽々に扱われるべきものではないけれども、反面、右非行の態様程度に照し、現段階においては少年の犯罪的危険性ないし要保護性をあまりに重大視するのは必ずしも当を得ないものというべきである。

三  鑑別結果通知書(福島少年鑑別所作成)によると、「少年の知能はI・Q七五で限界級であり、性格は内閉性、自己不確実性、意志欠如性を中核とした精神病質の疑いがあるので、精神科医による精密な診断が望ましく長期の精神医学的ケースワークの必要があるが、医療措置は不要である」旨診断され、結局、「在宅保護(専門)が相当である」ものと判定されているのであつて、なお、少年の性格の偏りは小さくはないが、指導者に対して温順素直である等更生に資する良き性格面をも有していることが認められるのである。

四  少年の家庭は、父母が互いに多少の不満を有し必ずしもしつくりとはいつておらず、また格別の知識教養もないこととて確たる指導方針が立たず少年をいわばもてあましており、指導監督を直ちに期待しがたいのであるが、しかし父母の右確執も世間ではありがちなことで特にあげつらうほどのことでなく、ともに農業兼民宿旅館業を営んで生活にゆとりもあり少年の更生に対する熱意ももとより何ら失つてはいないのであつて(なるほど少年調査票に指摘のとおり母親にはかなりの粘着性性格がうかがわれるものの、それを別とすれば、両親の知能性格等に同調査票指弾のごとき異常があるとはにわかに認めがたいところである。)、適切な指導者による継続的な助言指導があれば、少年に対する保護能力の発揮を期待しえないことはないと認められる。

しかして、以上の一ないし四の諸事情を総合考量すれば、少年に対しては、前記鑑別結果通知書の判定意見にも示されているごとく、その更生を期するためにこれを在宅保護(専門)すなわち保護観察処分に付し、ケースワーカーとしての専門的知識を有する保護観察官(および保護司)の指導援護に服させることこそ現段階における必要にして適切十分な措置であると認めるのが相当であつて、これに反し少年を今直ちに医療少年院に送致すべきものとした原決定の処分には到底疑問なきをえず、原決定は重きに失し著しく不当であるものと認めざるをえない。

よつて、本件抗告は理由があるので、少年法第三三条第二項、少年審判規則第五〇条により原決定を取り消し、本件を福島家庭裁判所会津若松支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 細野幸雄 裁判官 深谷真也 桜井敏雄)

参考二 少年の抗告申立書

自分は女の人をさわつただけで少年院に入れられましたそれから幼い時友達だつたゆう人にさそはれてバーにビールを生れて始めてさそはれたので飲みに行きましたそれだけで自分は少年院医療に入れられました。

相手がビールを飲み過ぎてよつたので急になぐつてくるのです相手は小さい時から物事をへんなふうに考えるのです。自分はどうしてこれだけの言で少年院に入れられたのでしよう少年院医療の生徒にはなりたく有りません。

昭和四五一〇月一四日

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